病院実習に使える! ヘパリンの薬理・薬動・製剤・病態・治療・DI ① 【おすぎの勉強ノート】

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おすぎ

今年度の病院実習は、新型コロナウイルス感染症の影響で、多大な制約を課されました。私の施設では、院内の座学となりました(ピーコの施設ではリモートだったらしい)
院内採用されている医薬品の中で、1つだけ取り上げて勉強するとしたら――そんなコンセプトで私はヘパリンを取り上げて、薬学生に指導しました。どこの病院に就職しても、ヘパリンはほぼ必ず採用されているからです。
私が学生向けに作成した教材を再編集して、ブログに公開します!

1 ヘパリン類の分類

課題1(製剤) ヘパリンカルシウムの特徴

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おすぎ

次の資料は、米国食品医薬品局(FDA)が2011年12月に発出した“Safety labeling changes”の抜粋です。これを参考にして、本邦のヘパリンカルシウム皮下注用プレフィルドシリンジの特徴を考えよう。

Use preservative-free Heparin Sodium Injection in neonates and infants. The preservative benzyl alcohol has been associated with serious adverse events and death in pediatric patients. The minimum amount of benzyl alcohol at which toxicity may occur is not known. Premature and low-birth weight infants may be more likely to develop toxicity.

MedWatch Medical Product Safety Information archive “Heparin Sodium Injection: Safety Labeling Changes Approved By FDA Center for Drug Evaluation and Research (CDER) – June 2010, February and December 2011″より
http://wayback.archive-it.org/7993/20170112174723/http://www.fda.gov/Safety/MedWatch/SafetyInformation/ucm219000.htm
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ヘパリンのナトリウム塩とカルシウム塩の相違は、臨床的にはほとんどないと言われています。ただし本邦では、ヘパリンカルシウムに皮下注用プレフィルドシリンジが上市されており、剤形の相違があります(海外では、ヘパリンナトリウムにも同様の製剤が販売されている)
提示された資料は、いわば本邦の『医薬品安全対策情報(DSU)』に相当する、米国の医薬品注意喚起情報です。ヘパリンナトリウムの保存剤による毒性(Gasping症候群:神経損傷、代謝性アシドーシス、喘ぎ呼吸等の症状を伴い、多臓器不全に陥って死亡する)ゆえに、新生児・乳児に対しては、ベンジルアルコールを含有しない製剤の使用を指示しています。本邦の場合、ほとんどのヘパリンナトリウム製剤が保存剤にベンジルアルコールを含有するのに対し、全てのヘパリンカルシウムのプレフィルドシリンジはそれを含有しません。本邦でも臨床上、不育症の妊婦に対してヘパリン類の自己注射が行われていますが、ベンジルアルコールを忌避してヘパリンカルシウムのプレフィルドシリンジが使用されています。
本邦で同様の注意喚起は、2013年11月発行のDSUで、ゲンタマイシン硫酸塩注射液について行われました。

日本製薬団体連合会『医薬品安全対策情報(DSU)No.224』より改変
http://www.info.pmda.go.jp/dsu/DSU224.pdf(リンク切れ→別リンク

2 ヘパリン類の適応症

ヘパリン類の適応症
  1. 播種性血管内凝固症候群の治療
  2. 血栓塞栓症(静脈血栓症、心筋梗塞症、肺塞栓症、脳塞栓症、四肢動脈血栓塞栓症、手術中・術後の血栓塞栓症など)の予防および治療
  3. 血液透析・人工心肺その他の体外循環装置使用時の血液凝固の防止
  4. 血管カテーテル挿入時の血液凝固の防止
  5. 輸血および血液検査の際の血液凝固の防止
  6. 静脈内留置ルート内の血液凝固の防止 → ヘパリンロック用プレフィルドシリンジのみの適応
  7. 抗リン脂質抗体症候群合併妊婦に対する不育症の治療 → 薬事承認外だが保険適応(在宅自己注射も可)

課題2(医薬品情報) 低分子ヘパリンの特徴①

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次の資料は、急性肺塞栓症に対する用量調節未分画ヘパリン(UFH)または固定用量低分子ヘパリン(LMWH)の投与中に再発した静脈血栓塞栓症に関するメタアナリシスです。この資料に基づいて、両者の治療効果を考えよう。

Quinlan DJ et al., Low-molecular-weight heparin compared with intravenous unfractionated heparin for treatment of pulmonary embolism: a meta-analysis of randomized, controlled trials. Ann Intern Med 2004;140:175-83 [PMID:14757615]より
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オッズは、イベントが発生する確率と発生しない確率の比です。そして、2群間のオッズの比がオッズ比となります。どちらの群でイベントが発生しやすいか(あるいは発生しにくいか)を比較するための統計指標です。
臨床研究のデザインには大別して、前向き研究と後向き研究があります。どちらの研究デザインでもオッズ比は等しい値となり、共通の統計指標として利用できます。
メタアナリシスは、複数の臨床研究を統合することによって、より精度の高いデータを推定する統計解析です。個々の研究規模が小さくて区間推定が広い場合、メタアナリシスはそれを狭める効果があります。
オッズ比が1の時、両群とも等しいイベント発生率と言えます。オッズ比の95%信頼区間が1を含まない時は、5%の危険率をもって、一方の群が他方の群より高い(あるいは低い)イベント発生率と言えます。

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提示された資料では、オッズ比が1より小の時、静脈血栓塞栓症の再発抑制効果は、固定用量LMWH群のほうが用量調節UFH群より優れていることを示します。メタアナリシスの結果、統合オッズ比の点推定値は0.63でしたが、その95%信頼区間は0.33~1.18でした。つまり、固定用量LMWH群のほうが用量調節UFH群より優れているとは言えませんでした。

Quinlan DJ et al., Low-molecular-weight heparin compared with intravenous unfractionated heparin for treatment of pulmonary embolism: a meta-analysis of randomized, controlled trials. Ann Intern Med 2004;140:175-83より改変
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この結果に対しては、様々に考察することができます。
メタアナリシスに用いられた個々の臨床研究は、そのほとんど(10/12)でオッズ比が1より小であるため、固定用量LMWH群のほうが用量調節UFH群より優れている傾向を示します。それにもかかわらず有意差が認められなかったのは、ヘパリン類投与中に再発した静脈血栓塞栓症がまれ(1.8%)で、検出力不足により95%信頼区間を狭めきれなかったせいと考えられます。
仮に、固定用量LMWHと用量調節UFHの効果が同じだとしても、APTT等をモニタリングせずに済むので、臨床的には簡便と言えます。他方で、固定用量LMWHは高価であるため、APTT等を適正にモニタリングすれば、用量調節UFHのほうが医療経済的に有利とも言えます。

課題3(薬物動態) オルガランの投与法

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播種性血管内凝固症候群(DIC)の患者に対し、次のように処方されたため、薬剤師は投与法について処方医に疑義照会をしました。処方医は「海外では皮下注が行われています。患者の出血リスクが高いので、血中濃度を上げすぎないように皮下注を行いたい」と回答しました。では、薬剤師はどう対応すべきか考えよう。

<処方>
オルガラン静注1250単位 1管
1日2回 皮下注射

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本邦では、オルガランの投与法は静注しか認められていません。しかし海外では、一般的に皮下注が行われており、現に皮下注用プレフィルドシリンジも販売されています。提示された資料では、処方医は海外の投与法を参照したものと推測されます。当然、薬剤師は添付文書に基づいて疑義照会を行わなければいけませんが、同時に薬学的なエビデンスに基づくべきです。
海外ではオルガランの皮下注が行われているのに、本邦では静注しか認められていないのはなぜか? その理由について調査・検討する必要があるでしょう。医薬品医療機器総合機構(PMDA)のウェブサイトからは、医療用医薬品の承認審査情報が検索できます。オルガランの投与法に関しては、「申請資料概要」の中で以下のように言及されています。

日本オルガノン(現MSD)「オルガラン注申請資料概要」より改変
https://www.pmda.go.jp/drugs/2000/g000712/
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おすぎ

海外では、オルガランは静脈血栓塞栓症の予防に対して皮下注で用いられているので、本邦の治験でも、当初は皮下注が行われていました。しかし本邦では、適応症がDICの治療とされたため、皮下注は皮下出血のリスクが高い投与法とみなされ、治験の途中で静注へ変更されました。このような開発の経緯を踏まえれば、処方医の「患者の出血リスクが高いので」という処方意図に対しては、むしろ静注のほうが適切であると考えられます。
なお、皮下注で同等の抗凝固効果を得る場合は、1日1回で1回2500単位を投与する必要があり、提示された処方では血中濃度が十分に上がらない可能性があります。
したがって疑義照会の際、薬剤師は「DICに対して皮下注という投与法は、皮下出血の危険性が否定できません。患者の出血リスクが高いならば、むしろ静注のほうが適切ではないでしょうか」などと提案するとよいでしょう。

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