病院実習に使える! ヘパリンの薬理・薬動・製剤・病態・治療・DI ② 【おすぎの勉強ノート】

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おすぎ

コロナ禍で病院実習が制約を受けたため、私の施設では主に座学が行われました。私は数千種の採用薬の中からヘパリンを選び、総合的に学習するための教材を作りました。それを再構成して公開する記事の後編です!

3 ヘパリン類の薬理

課題4(薬理) 低分子ヘパリンの特徴②

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次の図A~Cを参考にして、低分子ヘパリンの特徴を考えよう。

キッセイ薬品『フラグミン静注5000単位/5mLインタビューフォーム(第5版)』より改変
https://di.kissei.co.jp/dst01/pdf/if_fr09.pdf
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抗Ⅹa活性はヘパリン類の抗凝固効果、抗Ⅱa活性(Ⅱaは別名トロンビン)はヘパリン類の出血傾向とそれぞれ相関します。したがって、抗Ⅹa活性/抗Ⅱa活性比が大きいヘパリン類ほど、抗凝固効果に比して出血傾向が少ないと言えます。
図Aは、ヘパリン類の分子量と抗Ⅹa活性および抗Ⅱa活性の関係を示したグラフです。抗Ⅹa活性はヘパリン類の分子量にかかわらず一定である一方、抗Ⅱa活性は分子量5000近傍に臨界点を有しています。つまり、分子量5000以上のヘパリン類では、抗Ⅹa活性/抗Ⅱa活性比が約1である一方、それ以下の分子量では、抗Ⅹa活性/抗Ⅱa活性比が急に増大します。したがって、低分子ヘパリンは未分画ヘパリンと同等の抗凝固効果を示しながら、出血傾向が少ない特徴を有します。

キッセイ薬品『フラグミン静注5000単位/5mLインタビューフォーム(第5版)』より改変
https://di.kissei.co.jp/dst01/pdf/if_fr09.pdf
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図Bは、低分子ヘパリンのダルテパリンと未分画ヘパリンの抗凝固効果を比較したグラフです。ダルテパリン・ヘパリンとも同用量で、対照より有意な抗凝固効果を示しています。明示されていないものの、ダルテパリンは同用量のヘパリンに比して(例えば50IU/kg同士)、有意な抗凝固効果を示していません。これは、抗Ⅹa活性が分子量にかかわらず一定であることに矛盾しません。

キッセイ薬品『フラグミン静注5000単位/5mLインタビューフォーム(第5版)』より改変
https://di.kissei.co.jp/dst01/pdf/if_fr09.pdf
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図Cは、低分子ヘパリンのダルテパリンと未分画ヘパリンの出血傾向を比較したグラフです。ダルテパリン・ヘパリンとも用量依存的に出血傾向を増大させていますが、ダルテパリンがヘパリンに比して有意に抑制されています。これは、抗Ⅱa活性が分子量5000以下において急に減少することに矛盾しません。

キッセイ薬品『フラグミン静注5000単位/5mLインタビューフォーム(第5版)』より改変
https://di.kissei.co.jp/dst01/pdf/if_fr09.pdf

4 未分画ヘパリンの投与法

ヘパリン置換
日本循環器学会『循環器疾患における抗凝固・抗血小板療法に関するガイドライン』・日本消化器内視鏡学会『抗血栓薬服用者に対する消化器内視鏡診療ガイドライン』より作成
https://www.j-circ.or.jp/old/guideline/pdf/JCS2009_hori_h.pdf
http://minds4.jcqhc.or.jp/minds/gee/20130528_Guideline.pdf

課題5(治療) 静脈血栓塞栓症の治療

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次の資料は、米国心臓協会(AHA)が発表した“Management of Deep Vein Thrombosis and Pulmonary Embolism”の抜粋であり、深部静脈血栓症および肺塞栓症に対するヘパリン治療について記述されています。下線部AおよびBについて、本邦のガイドラインで推奨されている治療域を調べよう。

Heparin should be initiated with an intravenous bolus of 5000 U followed either by an intravenous infusion of 1400 U/h or a subcutaneous injection of ≈17500 U twice daily. A weight-adjusted dose regimen can also be used. This regimen consists of a continuous intravenous infusion in a bolus dose of 80 U/kg followed by an infusion at 18 U/kg per hour. The aPTT should be performed ≈6 hours after the bolus and initiation of the continuous infusion and at least daily thereafter to maintain the aPTT in (A)the therapeutic range equivalent to an anti–factor Xa heparin level of 0.3 to 0.7 U/mL. Warfarin can be started within the first 24 hours. Heparin is continued for 5 days or longer until prothombin time (PT) has been in (B)the therapeutic range for a minimum of 2 consecutive days. It is essential that the initial dose of heparin be adequate to achieve a therapeutic aPTT and that the period of overlap of heparin and warfarin is sufficient to allow the full antithrombotic effects of warfarin to be expressed.

Hirsh J et al., Management of deep vein thrombosis and pulmonary embolism. A statement for healthcare professionals. Council on Thrombosis (in consultation with the Council on Cardiovascular Radiology), American Heart Association. Circulation 1996;93:2212-45 [PMID:8925592]より
https://www.ahajournals.org/doi/full/10.1161/01.cir.93.12.2212

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本邦では、日本循環器学会が『肺血栓塞栓症および深部静脈血栓症の診断、治療、予防に関するガイドライン(2017年改訂版)』を策定しており、急性肺塞栓症に対するヘパリン治療に関して、以下のように記述しています。

日本循環器学会『肺血栓塞栓症および深部静脈血栓症の診断、治療、予防に関するガイドライン(2017年改訂版)』より改変
https://j-circ.or.jp/old/guideline/pdf/JCS2017_ito_h.pdf
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このように本ガイドラインの記述は、提示された資料のほとんどコピペ引用だとわかります(笑) また、急性肺塞栓症に対するワルファリン治療に関しては、以下のように記述されています。

日本循環器学会『肺血栓塞栓症および深部静脈血栓症の診断、治療、予防に関するガイドライン(2017年改訂版)』より改変
https://j-circ.or.jp/old/guideline/pdf/JCS2017_ito_h.pdf
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したがって、課題の下線部Aについては、APTTの施設基準値上限の1.5~2.5倍、下線部Bについては、PT-INR1.5~2.5(または1.6~2.6)と言えます。欧米のガイドラインは普通、ヘパリンについてAPTTの施設基準値上限の2~3倍、ワルファリンについてPT-INR2.0~3.0を推奨していますが、本邦のガイドラインは日本人の体格にあわせて小さくなっています。ただし、ヘパリンの添付文書は「全血凝固時間又はWBAPTTが正常値の2~3倍になるように」と規定しているので留意しましょう。

5 ヘパリン類の副作用

ヘパリン過量投与時の対応
  • ヘパリンの半減期は短いので、投与中止後4~6時間経過すれば効果は消失し、基本的にプロタミンは必要ない。
  • ヘパリンの急速な中和が必要な場合は、ヘパリン1mL(=1000単位)に対しプロタミン1mL(=10mg)を静注する。
  • プロタミン自体が抗凝固作用を有するため、ACTのモニタリングを行いながら、中和量を超過して投与しない。
  • プロタミンの効果はヘパリン分子量に依存するので、低分子ヘパリンの中和は最大60%程度とされる。
  • 体外循環(血液透析・人工心肺)終了時にヘパリンをプロタミンで中和する場合、反跳性出血をきたすことがある。

課題6(病態) ヘパリン類の有害事象

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次の資料は、ヘパリンによる有害事象をきたした症例です。有害事象が何であるか考え、その一般的な症状、機序、診断および治療を調べよう。

<現病歴>
63歳、女性。20XX年9月中旬より36℃後半の微熱が続いていたが、9月29日に胸痛が現れたため、近医を受診した。血液検査にて胆道系酵素の軽度高値、ならびにCRPの高度高値が認められ、同日中に当院消化器内科を紹介受診した。胸腹部CTを施行したところ、弓部~上行大動脈に偽腔閉鎖型の解離が認められ、スタンフォードA型急性大動脈解離の診断となった。当院心臓血管外科にて、上行大動脈人工血管置換術を緊急施行した。ICUで周術期管理をされた後、一般病棟へ移動しても全身状態は良好に経過していた。10月10日(術後11日目)、右下腿の疼痛および冷感が現れ、足背動脈触知の左右差(右<左)、ならびに右下腿の腫脹およびチアノーゼが認められた。ABI(足関節上腕血圧比)は右下肢で0.83、左下肢で0.90であった。深部静脈血栓症の疑いで血管造影CTを施行したところ、動脈に閉塞はなく、静脈には膝関節まで明らかな血栓はないが、右膝窩に血栓を疑う所見があった。さらに胸部CTを施行したところ、明らかな肺塞栓の所見はなかった。同日中に弾性ストッキングを装着し、ヘパリン・ワルファリン併用による抗凝固療法を開始した。

<投薬歴>

<ヘパリン投与の詳細>

<検査値>

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提示された資料は、術後の深部静脈血栓症(DVT)をきたした患者に対し、ヘパリン・ワルファリン併用による抗凝固治療を行った一例です。ヘパリンが投与4日目で中止されていますが、その理由は、ヘパリン起因性血小板減少症(HIT)が疑われたためです。検査値を見ると、ヘパリンを持続静注しているにもかかわらず、APTTはほとんど延長しない一方で、PLTが急速に減少しています。そしてヘパリン投与の中止後は、PLTが急速に回復しています。HITは致死的な転帰をたどる重大な有害事象であるため、確定診断の前でもただちにヘパリン投与を中止しなければなりません。なお、本症例はのちにHIT抗体陽性と確認されました。
HITに関する情報は、成書・インターネットを通じて容易に入手可能です。海外では、米国胸部医学会(ACCP)が“Heparin-Induced Thrombocytopenia: Recognition, Treatment, and Prevention”を公刊しています。本邦では、公的な情報源として、厚生労働省が『重篤副作用疾患別対応マニュアル:ヘパリン起因性血小板減少症(HIT)』を策定しています。また、NPO法人血栓止血研究プロジェクトは、民間のHIT情報センターとして長年活動しており、そのウェブ上に発信される情報はよく信頼されています。
HITの病態・診断・治療に関して、詳細は各種資料を参照することとし、以下に概要を提示します。

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HITに対する代替の抗凝固薬に関して、ACCPのガイドラインはアルガトロバン・ダナパロイド等を推奨しています。ただし本邦では、アルガトロバンの投与量は「0.7mg/kg/min(肝機能障害のあるときは0.2mg/kg/min)で点滴静注を開始し、APTTを投与前の1.5~3.0倍(出血リスクの高いときは1.5~2.0倍)に調節すること」とされており、ACCPのガイドラインの推奨量とは異なります。本邦ではダナパロイドに保険適応はありませんが、ACCPのガイドラインは推奨量を“Bolus: 2,250 U; infusion, 400 U/h for 4 h, then 300 U/h for 4 h, then 200 U/h, adjusted by anti-Xa levels”と記載しています。
提示された資料では、ヘパリン中止後にアルガトロバンは投与されていません。その理由は、抗凝固薬としてワルファリンを併用しており、PT-INRが既に治療域(1.5以上)に到達していたためと推察されます。しかしながら、HITに対するワルファリン投与に関して、ACCPのガイドラインは以下のように勧告しています。

Warkentin TE et al., Heparin-induced thrombocytopenia: recognition, treatment, and prevention: the Seventh ACCP Conference on Antithrombotic and Thrombolytic Therapy. Chest 2004;126(3 Suppl):311S-337S [PMID:538347]より改変
https://journal.chestnet.org/article/S0012-3692(15)31496-3/abstract
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要するに、HIT発症時にワルファリンが投与されている場合は、ビタミンKで中和するべきです。その理由は、プロテインCの抑制によって皮膚壊死・静脈性四肢壊疽のおそれがあるからです。
薬剤師は病棟業務の中で薬学的管理を実施し、不適切な処方があれば医師に疑義照会するべきです。

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